膵β細胞の脂肪毒性に対する脂質代謝賦活化による治療戦略
日本学術振興会:科学研究費助成事業
Date (from‐to) : 2021/04 -2024/03
Author : 村尾 孝児; 福長 健作; 井町 仁美
今年度は、HDL代謝、特にABCA1遺伝子発現と脂肪毒性が膵β細胞に及ぼす影響について、特に細胞内情報伝達系に焦点をあて網羅的に検討してきた。2種類のキナーゼの保存された触媒ドメインをもとに、セリン・スレオニンキナーゼを網羅する抗体(Multi-PK)、チロシンキナーゼを網羅する抗体(Multi-YK)を作成した。膵β細胞にコレステロールを負荷し脂肪毒性を誘導し、プロテインキナーゼの発現パターンを上記のmulti-kinase抗体で検討した。Multi-PKでは、コントロールと比較して、脂肪毒性で約200kD, 150kD, 90kDバンドが強く発現され、約60kDのバンドが消失した。上記の変動を認めたバンドに関しては、質量分析法にて解析をおこない約60kDはcalcium/calmodulin-dependent protein kinase IV(CaMKIV)であることを同定した。。
一方、細胞内情報伝達系の下流に存在する転写因子についても、膵β細胞においてCaMKK-CaMKIVの強発現モデルにDNAマイクロアレイを用いた網羅的な解析をおこなった。CaMKK-CaMKIV pathwayを仲介する転写因子の候補としてprolactin regulatory element binding (PREB)が抽出できた。転写因子PREBは、膵β細胞において非常に強い発現を認めインスリン遺伝子やグルコキナーゼ遺伝子のプロモーターに特異的なDNA結合配列を認めた。今回は、インクレチンの一つであるGLP-1がCaMKK/CaMKIV pathwayを介してABCA1遺伝子転写を促進し、インスリン分泌能を回復することを明らかにして、脂肪毒性解除に向けた治療法を見いだしている。