フランス法における所有者意思(animus domini)の観念
日本学術振興会:科学研究費助成事業 若手研究
研究期間 : 2020年04月 -2024年03月
代表者 : 林田 光弘
本研究は、取得時効の主たる成立要件の一つである所有の意思(民法162条)について、フランス法でこれに対応する概念である所有者意思(animus domini)との比較考察を通じて、我が国の法解釈学に対する有意な知見を得ることを最終的な目的とする。しかし、かかる目的を達成するためには、そもそも取得時効がいかなる正当化根拠に基づく制度であるのかに関する基礎的な考察を必要とする。なぜならば、我が国の法解釈上、取得時効制度の正当化根拠をどのように理解するかという未解決の問題が残存するところ、これに対していかなる立場を採るかに応じて、所有の意思/所有者意思の有無をどの程度広く認めるのかが自ずから変わってくるからである。
上記のような理解に基づき、令和3年度は、取得時効制度の正当化根拠という古典的な論点について、とくに近時のフランス民法学説の到達点を明らかにする作業を行った。具体的には、フランス破毀院第3民事部の2011年6月17日および同年10月12日の2つの判決(Cass. Civ. 3e, 17 juin 2011, no 11-40.014, Bull.Civ.III, no106 ; 12 octobre 2011, no 11-40.055, Bull. Civ., III, no 170)を手掛かりとし、これらの判決に対するフランス学説の応接を詳細に辿ることで、財物の有効利用という要素が取得時効の取得的効果と消滅的効果のいずれの側面においても補完的な正当化根拠として位置づけ得ることを明らかにした。財物の有効利用という正当化根拠は、我が国でも近時注目を集めており、同様の傾向がフランス法上も看取されることは、我が国の法解釈学にとっても非常に示唆的である。なお、上記の研究成果については、関西取引法研究会および大阪市立大学民法研究会において、それぞれ報告を行った。