複数帝国間関係からの華僑・華人研究の再構築―香港・台湾・シンガポールを中心に
日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(B)
研究期間 : 2021年04月 -2026年03月
代表者 : 八尾 祥平; 村井 寛志; 鶴園 裕基
これまでの華僑・華人研究では、中国大陸と華僑・華人とのつながりを自明視した研究が主流であった。これに対して、本研究では、大英帝国と日本帝国の旧植民地であった香港、台湾、そして、シンガポールと華僑・華人との結びつきに着目して、一種のステレオタイプ化した華僑・華人像を再構築することを目指す。
具体的には、①単一帝国ではなく、旧日英帝国という複数帝国の視座を採用し、②冷戦期における台湾・香港・シンガポール間の出入国管理体制を実証的に分析することで、「植民地からの近代化」を実証的に検証する。本研究は、出入国管理を切り口にして、既存の華僑・華人研究では周縁化されてきた香港人・台湾人・シンガポール華人を考察することで、「中国にルーツをもつこと」を自明視しない主体意識が形成される歴史的過程を国家政策と国際環境との連関から解明することで、これまでの華僑・華人についての理解を刷新しうると考えている。
こうした問題意識と研究計画に基づき、今年度は研究の初年度として(1)研究体制の整備、(2)国内における史料調査、(3)研究会の開催を行った。(1)については、研究者の役割分担の明確化や各メンバーの所有する史料やこれまでの研究の知見をwebサイトなどを用いて効率的に共有化するための体制を整備した。(2)については、今年度は新型コロナの感染拡大により海外での史料調査は行わず、国内での史料収集や各メンバーが所有する史料を整理することをあらかじめ予定していた。そこで、国会図書館や神戸華僑歴史博物館等に所蔵される戦後の日本社会における華僑の在留資格関係の史料調査を実施した。(3)について、今年度は定例研究会を4回実施することができた。
こうした研究活動によって得られた知見は、泉水英計編『『近代国家と植民地性-アジア太平洋地域の歴史的展開』(御茶の水書房)に所収される論文として刊行された。