重症脳外傷患者における脳内アミロイドβ蛋白沈着と高次脳機能障害の関連
日本学術振興会:科学研究費助成事業
研究期間 : 2014年04月 -2015年03月
代表者 : 河井 信行; 久冨 信之; 山本 由佳; 岡内 正信; 岸本 泰司
アルツハイマー病(AD)モデルマウスであるtriple-transgenic AD-model(3xTg-AD)マウスとwild type(WT)マウスを用い、重さ30gの鉄製錘を80cmの高さより自然落下させることでびまん性脳外傷を作成した。
3xTg-ADマウスでは、受傷後7日目の脳外傷群におけるモリス水迷路における空間学習記憶力の障害は非脳外傷群と比較して有意な差を認めず、海馬におけるAβの沈着にも明らかな差がなかった。ところが受傷後28日目には、脳外傷群において明らかな空間学習記憶力の低下を認め、海馬におけるAβ沈着が著名に増加していた。
WTマウスでは、受傷後7日目のモリス水迷路で脳外傷群は非脳外傷群に比較して有意に空間学習記憶力が低下し、病理組織学的検討で海馬におけるアミロイドβ(Aβ)の沈着が増加していたが、受傷28日目になると脳外傷群における空間学習記憶力の低下は改善し、同時に海馬におけるAβ沈着が減少していた。
今回の研究で、3xTg-ADマウスにおいて脳外傷が空間学習記憶力の低下を引き起こし、この障害は海馬におけるAD原因物質と考えられるAβの沈着と関連があることを明らかにした。一方、WTマウスでは脳外傷は急性期に海馬におけるAβ沈着増加を伴った空間学習記憶力障害を認めるが、この障害は慢性期になると改善し、同時に海馬におけるAβ沈着も減少していることを示した。
今回のWTマウスにおける結果は、従来までのヒトにおける病理学的知見とよく一致しており、正常脳では脳外傷急性期に沈着したAβを分解排除するメカニズムが存在すると考えられる。一方、3xTg-ADマウスにおける結果は、高齢者等でAD発症の素因を持つ脳では、脳外傷が遅発性にAβ沈着を伴った空間学習記憶力の低下を引き起こす可能性があると考えられる。