スタチンが効くがんを見極める予測因子の探索とがん転移抑制剤に向けたエビデンス構築
日本学術振興会:科学研究費助成事業 基盤研究(B)
研究期間 : 2019年04月 -2023年03月
代表者 : 割田 克彦; 保坂 善真; 太田 健一
Transforming Growth Factor-β(TGF-β)は、上皮系のがん細胞を間葉系へと変化させる上皮間葉転換(EMT)を誘導し、がんの悪性化に深く関与している。しかし、TGF-β誘導性のEMTとスタチンの制がん効果の関係についてはよくわかっていない。一般にTGF-βは、細胞の分化誘導にあたり細胞増殖を強力に抑制することが知られているが、上皮系肺がん細胞株NCI-H322MはEMT誘導とともに細胞増殖が惹起される特異的ながん細胞であった。興味深いことに、アトルバスタチンを処置したNCI-H322Mでは、TGF-βによる細胞増殖性の亢進が有意に抑制され、さらに、間葉系マーカーのN-cadherinとVimentinの発現増加は有意に抑制された。以上より、がん細胞へのアトルバスタチンの処置は、TGF-β依存性の細胞分裂を抑え、EMTの進行を抑制する可能性が示唆された。
一方、スタチンに高感受性を示す間葉系肺がん細胞株HOP-92に0, 0.1, 1 uMのアトルバスタチンを添加し、代謝物の変動を比較したところ、3群間で異なる代謝プロファイルが示された。中でも、SpermidineやSpermineといったポリアミンの物質が1 uM添加群で低値の傾向を示すことが明らかとなった。先行研究ではスタチンがアルギナーゼ(アルギニンをオルニチンと尿素に加水分解する酵素)の阻害を介してポリアミン合成の抑制に関与することが報告されており、同様の現象がみられた可能性が考えられる。とくにポリアミンは細胞増殖や細胞死とも関連があることから、スタチン感受性がん細胞においては、ポリアミンの減少がスタチンによる細胞死の一因になり得ることが推察された。